しょこたんは
「焼肉やさんも余裕でひとりで入れる」とカミングアウトできるという一点だけで、僕の中で立派なスーパーアイドルなのである。
それくらい、世間一般の一人焼肉に対する目は冷たい。
「昨日一人で焼肉行った」と口にするだけで、周囲は変人でも見るかのような目で僕を見、そして最後には憐れみの視線を投げかける。
何故だ。
全くもって理解し難い。
私だって付き合いってもんがあるから大人数で焼肉屋に行く事もあるが、そりゃあ酷いもんだ。
皿の上の肉と野菜を全部いっぺんに網の上に投下する奴。
喧騒の中で何とか育てている肉を横からかっさらう奴。
自分の取り皿に焼けた肉を何枚もとっていく奴。
レバ刺しを網の上に乗せる奴。
自分サイドの焦げた肉や野菜や牛脂を網を回転させてこちら側に押し付けてくる奴。
全くもって馬鹿馬鹿しい。
皆で好き勝手に飲み食いして喋りたいのなら、居酒屋なりファミレスなり他にいくらでも選択肢があるだろう。
普通の外食と違って、焼肉屋では当たり前だが客が自分で肉を焼かなければならない。
味を決める重要なファクターが客自らに委ねられているわけだ。
会話などにうつつをぬかしていたら、あっという間に肉は黒焦げである。
肉の焼き具合を完全にコントロールするには集中力が必要なのだ。
いや、集中していてさえ、焼き具合を完全にコントロールするのは容易ではない。
炭にせよガスにせよ、網にせよ鉄板にせよ、火力は一定ではないし、肉の種類、厚さによって肉をのせるポジションを考慮していかなければ、絶妙な焼き具合は得られない。
肉と己との勝負に、他者が介在する余地などあってはならないはずだ。
そして、会心の焼き具合に焼けた肉を頬張る瞬間の幸福。
まったく、焼肉とは一人で食すべきものなのだ。
(複数人で行くのなら、せめて焼肉に対し同じ志をもつものでなければならぬだろう)
というわけで、私は断固一人焼肉派であるからして、周りにも一人焼肉のススメを説いて回っている。
初心者には一応牛角を薦める。(カウンター席あるから)
チェーン店で個人店に比べれば気兼ねなく一人で入れるだろうということもある。
しかし慣れてくると、案外チェーン店のほうが一人で食すのに気まずいムードというのを感じやすいものだ。(広い店舗、客層、従業員の数、サービスなどが影響しているように思う)
そこで次の段階として個人経営の焼肉店を巡る「一人焼肉行脚」を薦める。
一人の客に対して差別的な扱いをする店も中には存在する。
私も「一人焼肉行脚」の最中に、そんな店に出くわしたこともある。
けれど、行脚を続けていればいずれ安息の地は必ず得られるものだ。
心地良く一人焼肉に没入できる安息の地が。
ちなみに今、私の安息の地は
この店である。
一人焼肉の入店タイミングとしては他の客が少ない開店直後or閉店直前が常套手段であろうと思うが、オススメはやはり開店直後である。
763 名無しさん@お腹いっぱい。 sage New! 2006/09/06(水) 09:11:02 ID:o0lyuqxi
>>731
「ぼくは店を開けたばかりの焼肉屋が好きなんだ。
店の中の空気がまだきれいで、冷たくて、
何もかもぴかぴかに光っていて、店長が鏡に向かって、
ネクタイがまがっていないか、髪が乱れていないかを確かめている。
たれや岩塩のびんがきれいにならび、グラスが美しく光って、
客を迎えた店員ががその晩の最初のタン塩をきれいに並べ、整えた炭が燃えるテーブルにおき、
小さなトングをそえる。それをゆっくり味わう。
静かな焼肉屋での最初の静かなタン塩――こんなすばらしいものはないぜ」
「ぼくは店を開けたばかりのバーが好きなんだ。店の中の空気がまだきれいで、冷たくて、
何もかもぴかぴかに光っていて、バーテンが鏡に向かって、
ネクタイがまがっていないか、髪が乱れていないかを確かめている。
酒のびんがきれいにならび、グラスが美しく光って、
客を待っているバーテンがその晩の最初の一杯振って、きれいなマットの上におき、
折りたたんだ小さなナプキンをそえる。それをゆっくり味わう。
静かなバーでの最初の静かな一杯――こんなすばらしいものはないぜ」
=レイモンド チャンドラー「長いお別れ」
http://www.amazon.co.jp/%9577%3044%304a%5225%308c/dp/4150704511/sr=1-1/qid=1157500498/ref=sr_1_1/250-0059673-6034607?ie=UTF8&s=books
その理由は上とほとんど同じ。
ぼくの場合は、「その晩の最初のタン塩」に加えて「レバ刺し」であり「上ロース」でもあるのだが。
いやまったく、こんなすばらしいものはない。
そしてさらにチャンドラー風にこの後を続けるなら、
「焼肉は恋愛のようなもんだね」
「最初のカルビには魔力がある。二皿目はずっと食べたくなる。三皿目はもう満腹だ。」
とでもなるのだろうか。
うーん、イマイチ上手くないかぁ。(´Д`;)
長いお別れ※中高生時分の僕の憧れフィリップ・マーロウ。あんな大人になりたかったけど、程遠い大人になってしまいました。ギムレットというカクテルにも憧れましたけど、あんまり僕の口には合いませんでした。人間、中々思ったとおりの大人にはなれないもんですね。PR